筋肉の動きの抑制が凝りに関係するのはなぜ?
人間は当たり前ですが「動物」です。動物は自ら動くことを基本として生命活動が成り立っています。
さまざまな動作には筋肉の働きが不可欠で、目では見ることのできない内臓の働きや支えでさえも、筋肉が必要なのです。
昨今は、より便利なように、楽なようにと移動手段や運搬、情報伝達が発展し、
自らがたくさん動かなくてもやりたいことが容易にできるようになりました。
しかし、もともと人の身体は動くことを前提に生命活動を維持しているので、長時間固定するような状態は好まないのです。
血液(動脈血)を全身に送り出すのは主に心臓の働きですが、全身を巡り静脈血となった血液を心臓に戻すのに、
筋肉の収縮ポンプの作用が不可欠です。この働きが妨げられると、めぐりの悪い箇所が生じ、
栄養や酸素は十分吸収できず、老廃物や二酸化炭素を排出できなくなってしまいます。
これらの活動が局所的に十分できていない状態が「凝り」であり、筋肉の血行不良なのです。
さらに筋肉の収縮は熱を産生し、体温上昇にも関係します。
筋肉の血行不良は近隣の器官や内臓機能の働きにも影響を与える場合があります。
また、筋肉自体も栄養を十分とれず酸欠になり、しなやかさと支える能力を失います。
よって、「凝り」による痛みや不快感は危険信号の合図であり、身体は一生懸命に訴えているのです。
こう考えると、そのサインを嫌がり単に痛みを止める方法を選択する、
あるいは無視し続けることは根本的な解決法にはなっていないように思います。

後悔する人が後を絶たない
施術をしていると、「痛み」=「悪」ととらえ、
気になる痛みさえとってくれればよいという考えの方にときどき出会いますが、
なぜその事態が起こるのかを考えること、できうる対策をして今後に備えていくことなどご本人も日頃から意識的にならない限り、
同じ環境下では必ずまた繰り返されてしまいます。さらに悪いケースになると、年月の経過とともに凝りの波紋が広がり、
身体の複数箇所で不調を訴えることにもなりかねません。
日常生活も困難になってしまうぐらい身体がひずんでしまった方は、早くなんとかすればよかったと必ず後悔されます。
振り返ってみると身体からのサインが出ていたのに、日頃の忙しさやなんとかなるだろうという思いで騙し騙し来てしまったと。
実際、人間の身体は結構タフにできているとも言えます。多少のひずみゆがみは誰にでもあり、
それが個性にもなるので、標本のような身体を目指す必要はありません。
ただ、つらいところまでいかないよう、許容の範囲内でとどめておく、そして長い間ため込みすぎないことが大切でしょう。
人によっては「病気になったわけではないし」と、凝り症状を軽く受け取っている場合もありますが、
東洋医学を生業としているものにとっては、見逃すわけにはいきません。
体表にはご本人にも気づかない実に多くの情報がある
実は滞りやすい箇所には重要なツボがあるのです。
なるべくそういったところの滞りをなくしていくことで、病気も未然に防ぐことができます。
そして長年人の身体を診てきて私が感じるのは、多くの不定愁訴は身体機能の協調性欠如であり、
筋肉の状態からの影響は無視できないということです。いわゆる自律神経の乱れと言われる症状の場合でも、
背中や首の筋肉が引きつり固まっているなど、なんらか筋肉の異常が見られますし、
一見まったく筋肉とは関係ないような身体の不調を抱えた方も、全身を診させていただくと、
どこかしら筋肉のバランスを欠き健全に活動できていない箇所があります。
そして、起きている症状と筋肉の状態には、傾向が見られるので、先人の知恵と自分の経験から、
なるべく本来のバランスに近づけ、筋肉が健全に働けるような手助けを心がけて施術をしています。
以上から、凝りを感じるのは身体が快適な方向に修正してほしいという切なるメッセージであり、
健康を維持していくためには、なるべく多くの筋肉が健全に本来の動きができ、
協調性を失わないことが大切だと思っています。